【半月板損傷】症状と正しい治療法

膝関節は、歩く・走る・しゃがむといった様々な動きをする際に「クッション」の役割を果たしています。そのため膝を損傷すると、クッションが効かない状態で動作を行うことになり、強い不自由を感じることにつながります。膝を構成する組織の中でも「半月板」を損傷すると、痛みや膝の動きの制限が起こり、歩行に支障をきたすなど、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

「半月板損傷」と聞くと、スポーツ選手が受傷するケガというイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし実際には、スポーツに限らず高齢の方が日常生活の中で受傷することも少なくありません。しかも半月板は人体の中でも自然治癒しにくい部位であるため、受傷前と同じように膝を気にせず生活するのは難しくなることもあります。ただし、半月板を損傷したスポーツ選手でも、治療やリハビリに取り組むことで時間をかけて復帰される方が多くいらっしゃいます。どれだけ真剣に治療やリハビリに向き合うかによって、その後の生活の質は大きく変わります。

目次

半月板損傷とは

半月板は膝関節のうち、太ももに当たる大腿骨だいたいこつとすねに当たる脛骨けいこつの間にある組織で、アルファベット「C」の形をしていて、膝関節の内側と外側に1つずつ存在します。半月板は膝関節を形成する骨・軟骨・靭帯・腱といった組織を安定させる役割があり、それ以外の役割には膝関節にクッション性を持たせるというものです。これにより膝への衝撃などの負荷を軽減したり、膝の動きを滑らかにしたりと非常に重要な働きをしています。膝関節には歩くだけで体重の約5倍の負荷が掛かっていますが、そういった強い負荷を支える意味でも半月板は非常に重要な部位であるのです。

このように日常的に強い負荷に耐え続ける半月板ですが、想定外の強い衝撃や突然の負荷によって損傷してしまうことがあります。半月板損傷とは、このように大切な役割をはたしている半月板が損傷することで、膝の曲げ伸ばしの際に痛みや引っかかりを感じたりする外傷で、長期的には軟骨損傷から変形性膝関節症に至る場合もあるので注意が必要です。また、半月板は一度損傷すると自然に元の状態に戻ることはほぼなく、放置せず治療することが重要となります。

半月板損傷の原因

一般的には膝を捻ったり着地が上手くいかなかった時などに半月板損傷は起こりますが、そういった動作はスポーツ競技中に起こることが多く、若年層ではスポーツ中の急な切り返し動作などで起こってしまう外傷です。一方で、足腰が弱っていたり、転倒などで怪我をするリスクの高い高齢者では、無理な運動だけでなく日常生活でも半月板損傷が起こることがあり、激しい運動をしていない方でも受傷する可能性があります。

そうした動作で半月板が損傷する原因は「単独で損傷する場合」と「靭帯損傷など他の外傷に合併して損傷する場合」に分けられます。前者の代表的な例は、膝を捻るなどの大きな力が加わることで膝が深く曲がってしまい半月板が脛骨と大腿骨の間に挟まれて損傷を受けるケースです。後者の例は、前十字靭帯損傷など他の膝に関連する外傷を受傷した際に脛骨が亜脱臼し、半月板の後方に負荷が掛かり損傷するケースです。この様な外傷による大きな負荷以外でも、小さなストレスが繰り返される場合や、加齢による変性が原因となる場合もあります。またアジア人は、先天的にC型の中央のくぼみがなく半月板損傷を受傷しやすいとされていますので、他の外国の方以上に注意が必要といわれています。

こうして半月板は損傷し膝に痛みが発生するのですが、実は痛みが発生しているのは半月板自体ではありません。痛みの原因は大きく分けて「筋収縮」と「患部の炎症」の2つといわれています。「筋収縮」とは人体の各部位に強い衝撃や負荷が掛かることで周辺の腱や靭帯にも同時に強い負荷がかかり、この負荷や衝撃から関節を守るために筋肉に力が入ることで収縮することを意味します。これは組織を守るために身体が起こす防御反応の一種なのですが、これにより筋肉は損傷し痛みの原因となってしまい膝の痛として表れてしまうのです。もう一つの「炎症」は、半月板が損傷することで傷ついた組織を修復しようとする反応で、膝の炎症が起こると痛みの原因になるほか、膝が腫れたり水が溜まったりすることもあります。

半月板損傷で半月板としての機能が損なわれたままにしていると、膝の軟骨には大きな負担がかかります。そして、徐々に軟骨がすり減ってしまい変形性膝関節症を発症してしまう可能性があり、さらに数年から数十年後には人工関節が必要になる場合もあるのです。そのため、半月板損傷を放置してしまうと、その後より深刻な疾患につながるリスクが高まるので注意が必要です。

半月板損傷の症状

半月板の損傷は、程度が軽い場合と重い場合で症状に違いがあります。軽症な場合の特徴的な症状は、膝を曲げたときの痛みや不安定感、「キャッチング」と呼ばれる膝の引っかかり感です。重症な場合の症状で代表的なものは「ロッキング」です。「ロッキング」とは、断裂した半月板が関節内で膝の動きを邪魔することによって膝が固定されて完全に伸びなくなったり動かなくなる現象のことです。また、軽症に比べて痛みも強くなり、歩けなくなったり、関節液が溜まって膝が腫れることもあります。前十字靭帯損傷と合併した際は関節血腫を伴い、半月板のみの損傷と比べて腫れが強くみられます。

半月板損傷の検査

まずは問診にて症状や身体の状況を把握したり、受傷状況や患者さんがもつ背景の確認などを行うことが一般的です。次に身体診察にうつります。具体的には患部の外観を確認する視診や、直接触れて調べる触診を行います。膝の腫れ具合や内出血の有無、痛みの程度や関節の動きの確認は重症度や他の外傷との合併を見分ける上で重要な評価項目です。そんな身体診察の中で最も大切なのが「マクマレーテスト」と呼ばれる検査です。「マクマレーテスト」とは、患者さんに仰向けで寝てもらい、医師が足の裏と膝を持ち、膝を曲げた状態で捻ったり伸ばしたりして“膝から出る音や痛みの強弱を確認するテスト”で、マクマレーテストが陽性と判断された場合、半月板が損傷している可能性が高くなると考えられます

画像診断としてはレントゲン検査と MRI 検査を行うことが多いです。レントゲン検査では半月板そのものは写りませんが、骨折や変形などの関節症変化の有無について骨を中心に確認します。そして、診察やレントゲン検査で半月板損傷が疑われた場合は、半月板などの損傷具合を正確に確認できる MRI 検査に移ります。MRI検査では、半月板がどのようにどのように断裂しているかまで確認することができます。半月板損傷では「縦断裂じゅうだんれつ」「水平断裂すいへいだんれつ」「横断裂おうだんれつ」「弁状断裂べんじょうだんれつ」などのパターンがあり、そのパターンによって症状や治療が異なりますので丁寧に確認していくのです。

半月板損傷の治療

治療は保存治療と手術治療に分かれます。手術療法はさらに患部を取り除く「切除術」と、切れた半月板を縫って再建する「縫合術」に分かれます。どういった患者さんが保存療法に適しているのか手術療法に適しているのかは、「半月板損傷の程度」「場所」「ロッキング症状があるか」「スポーツ選手で早期の復帰を希望しているのか」などの症状を参考にしたり、術後の活動性を考慮しながら選択していきます。

保存療法

まず保存療法ですが、半月板損傷が比較的軽度であり、損傷部位が血流の多い外側であれば半月板の回復も見込めます。また、損傷状態や変性の程度によっては縫合による修復手術が不可能となる場合もあるため、そういった“重症で手術が困難な場合”も保存治療を選択し、患部の安静や鎮痛剤の使用によって回復を待ちます。そして、リハビリにより関節の動きを滑らかにしたり、筋力を強化して日常生活や競技にもどるという流れになります。

手術療法

“半月板の内側”は外側とは異なり血流がなく再生することはありませんので、もし内側を損傷した場合、縫合による修復しか方法はありません。さらに、ロッキングの症状があり、膝の曲げ伸ばしができない場合も手術が必要ですし、保存治療を行っても症状が改善しない場合も手術が検討されます。

手術の方法は「半月板切除術はんげつばんせつじょじゅつ」と「半月板縫合術はんげつばんほうごうじゅつ」の2つで、いずれも関節鏡という内視鏡の一種を利用した手術となります。「半月板切除術」は半月板の傷ついた部分を取り除く方法で、手術時間が短く済み、復帰までの期間も短くなります。「半月板縫合術」は傷ついた半月板を縫い合わせて、できるだけ半月板を温存する方法です。切除術に比べて手術時間や必要なリハビリ期間も長くなる傾向があり、仕事やスポーツに復帰するまでの期間も長期化しやすいのが特徴です。ですが、半月板を温存できるので変形性膝関節症の発症リスクを下げられるなど、長期的に見るとメリットが大きくなりますが、損傷の程度が激しく縫い合わせるのが難しい場合や、半月板の辺縁部などの治りにくい場所が損傷している場合は適応にならず、切除術が選択されます。

リハビリテーション

保存療法を選択したにせよ手術療法を選択したにせよ、半月板損傷で重要になってくるのがリハビリです。「膝の動きを元の状態に近づける目的」と「膝の周囲の筋力を鍛えて膝の負担を軽減する目的」で保存的治療を選んだ場合もリハビリテーションを行います。手術を選択した場合、手術直後は膝に腫れや痛みがあるのでリハビリを控えることもありますが、安静期間が長くなる程筋力低下は進むので、早い時期にリハビリを始めるため傷の状態を見ながら開始時期やメニューを決定します。ただし、松葉杖を使った歩行練習などは、通常手術の翌日から行い少しずつ強度を上げていきます。

術後のリハビリ期間は、半月板縫合術に比べて半月板切除術のほうが早い傾向にあります。スポーツ復帰までにかかる期間は「部分切除では4ヶ月程度」「縫合術では5ヶ月程度」です。膝の外傷の中でも重症となる半月板損傷は、治療が上手くいったとしても膝が怪我前の状態に完全に戻るケースは稀です。そのため、半月板損傷を受傷してしまった場合、まずは膝を大事に生活していただいたり、慎重にスポーツを行っていただくことが重要と言えます。具体的には「膝への負担を減らすために適正体重を保つ」「運動前後は十分なストレッチを行う」「筋力トレーニングを行って低下した半月板の機能を補う」などが大切です。リハビリ期間終了後も地道な努力が必要になる半月板損傷ですが、再発防止のためにも前向きに取り組んでいけば、受傷前と変わらぬ生活を取り戻すことも可能です。

監修医師のアドバイス

半月板損傷は膝の怪我のなかでも重症な怪我です。スポーツ選手にとっては長期間の競技離脱を余儀なくされる大怪我になりますし、社会人の方では仕事などにも大きな影響を及ぼします。気を付けていても怪我をしてしまうことはありますが、無理をしすぎないように運動したり仕事をすることが重要です。常に100%の力でプレーしたり、仕事をすることも重要ですが、怪我をしないように自分の体をコントロールする意識も重要となります。半月板損傷などの大怪我には注意してお過ごしください。

おやま整形外科クリニックでの治療費の例

初診の診察レントゲン(6方向)・処方箋
1割負担:約900円
2割負担:約1,780円
3割負担:約2,670円
再診の診察・物理療法
(電気治療、ウォーターベット)
1割負担:約110円
2割負担:約220円
3割負担:約330円
再診の診察・運動器リハビリ(理学療法士)
1割負担:約450円
2割負担:約890円
3割負担:約1,340円
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